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    インタビュー

    勝村久司

    勝村久司
    前中央社会保険医療協議会委員、高校教諭、連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員

    ——10年改定の議論では、明細書無料発行義務化を求める支払側と否定的な医療側の厳しい攻防戦での、情熱的な訴えが印象的でした。

    勝村: 10年改定は、裁判に例えると、一審、二審に続く最高裁に臨むような思いでした。労使と保険者が入る支払側委員が共同で改定に向けた要望書をまとめたのですが、その中で「全患者への無料発行を義務づける」という方針で一致してくれたのです。支払側を代表して要望書についてコメントした健保連の方が「ここだけは読み上げさせてください」と言って、全患者に無料発行すべきいう明細書発行の部分を強調してくれ、とてもうれしかったですね。ところが、年が明けて1月13日の中医協で、事務局から出てきた論点整理では、明細書の発行義務について、今までどおり「患者から求めがあった場合に」という表現のままだったのです。それまではずっと落ち着いて話してきましたが、この時ばかりは感情を抑えきれなくなってしまいました。薬害や医療事故の被害者たちが今までどんな思いで取り組んできたのか、06年、08年と必死で取り組んできたのは何だったのか、色んな思いが込み上げてきて、発言中、ときどき言葉に詰まってしまいました。でも医療側になんとか分かってもらいたく、声を振り絞りました。発言の後、中医協の会場が一瞬静まったことを覚えています。あとで傍聴席のある人が、気持ちが伝わってよかったと言ってくれましたが、自分の気持ちをそのまま言葉にすることもたまには大切なんだなと思いました。

    ——そして、最終日の2月12日、原則、すべての患者に明細書を無料で発行することを義務づけるという答申がまとめられました。義務化は電子請求の医療機関に限られ、コンピューターが対応できない医療機関では患者から求めがあった場合のみに限られるなどの課題もあります。

    勝村: 今回の改定は間違いなく大きな一歩ですが、本当の医療改革は始まったばかりだと思います。医療の世界は閉鎖的であればあるほど、患者が求めている医療とはかけ離れていきます。保険点数の内容が患者の価値観と離れていれば、患者が望んでいない検査や投薬、医療行為が知らないうちに行われてしまうのです。その最たるものが薬害であり、医療被害です。例えば、もっと救急医療にお金をかけるべきとか、周産期医療を充実させるべきという、患者側の価値観が入ってくれば、医療はもっと健全になります。

     これから患者が医療機関で明細書を手にとるようになることで、何が変わっていくか。例えば、私は、1992年から、陣痛促進剤の添付文書に、「患者に本剤を用いた分娩誘発、微弱陣痛の治療の必要性及び危険性を十分説明し、同意を得てから本剤を使用すること。」と明記すべきだと主張し続けてきましたが、2010年6月になって、ようやくその内容が添付文書に掲載されました。なぜ、今になって改訂したのかを尋ねたら「明細書が発行されるようになって、患者が点滴の中に入っている薬名などを知るようになったから」とのことでした。 私たちは、患者が受けている医療の中身を良くしていくための、ようやくスタートラインに立ったのです。一人ひとりが医療の中身と医療費に関心をもっていき、患者の医療リテラシーが高まっていくための、一つの大きなきっかけになってもらいたいと思っています。

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