勝村久司
前中央社会保険医療協議会委員、高校教諭、連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員
診療「明細書」の原則無料発行が義務化されましたね。勝村さんはカルテ、レセプト、そして明細書と、医療における情報公開の重要性を一貫して主張しています。情報公開はなぜ大事なのですか。
勝村: 1990年に医療事故で長女を出生の9日後に亡くし、妻も生死をさまよいました。妻の退院日、偶然テレビで「陣痛促進剤被害」のニュースを知り、それから1カ月後、裁判所によるカルテや看護記録の証拠保全が行われました。そこで初めて、長女の死が不必要な陣痛促進剤による影響だったことが分かりました。
陣痛促進剤は、感受性の個人差が100倍以上もあり、使用には慎重な判断が必要な薬だと注意喚起されていましたが、日本では多くの病院で使われていました。なぜか。出産日を曜日・時間ごとに集計すると、不自然な実態がよく分かります。火曜日の出産数は日曜日の1.5倍以上、午後2時は深夜の2倍以上。つまり、職員が多い平日の昼間に分娩を誘導していました。
その背景には病院経営があったのです。この病院では過去に4年間で25億円もの赤字を出していました。財政再建10ヵ年計画の中で、職員の人員整理による人件費削減、薬価差益の増額などの方針を掲げ、その後、毎年2億~5億円の純利益を上げていました。陣痛促進剤を使えば、予定日より早く、短時間でお産が終わり、薬価差益も増える。さらに陣痛促進剤の使用後にされやすい会陰切開、帝王切開などの処置にも保険点数がつき、収入が増える仕組みになっている。そういう仕組みを患者が知らなければ、医療機関は患者の治療や健康よりも、経営や効率を優先させることが可能です。
星子の事故から10年、病院の医療過誤を訴える裁判を続けながら、同じような医療事故や薬害にあった多くの被害者の方たちと出会いました。それぞれの事故・事件に共通する原因は、患者が医療の中身を知らされていなかったことにあります。当時の陣痛促進剤の被害者には「子宮口をやわらかくする薬です」や「欠陥確保のために点滴をします」という説明だけで、知らない間に投与されていたという共通点がありました。また、癌などでは、本当の病名さえ言わないことも少なくなかったと思います。カルテや看護記録の開示も重要ですが、医療機関から健保組合などへの請求書であるレセプトの開示が重要だということにも気がつきました。レセプトには、医療行為や薬の名前・数量まで、詳細がすべて記載されています。
患者団体として厚生省との交渉を重ねながら、さまざまな市民団体の会合などに呼ばれ全国を回りました。96年には医療問題の市民団体の横のつながりとなる「医療情報の公開・開示を求める市民の会」を設立し、97年、ついにレセプト開示の義務化を実現させることができました。
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