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    インタビュー

    自分の治療を知り、
    医療に関心を持つことに意義がある

    大熊由紀子

    大熊由紀子
    国際医療福祉大学大学院教授、福祉と医療・現場と政策をつなぐ「えにし」ネット 志の縁結び係&小間使い。

    東京大学教養学科科学史・科学哲学分科卒業後、朝日新聞社入社。科学部次長を経て、1984年、朝日新聞・女性初の論説委員に。医療、福祉分野の社説を17年間担当。『「寝たきり老人」のいる国いない国』は29刷のベストセラーとなり、介護保険創設のきっかけに。「えにし」のHP、http://www.yukienishi.com/でも発信中。

    医者も患者になると窓口では言いにくい

    ——作年の診療報酬改定で明細書の無料発行が原則義務化されました…

    大熊: 明細書の無料発行義務化は大賛成。私は明細書発行の運動では、患者が申し出をしなくても「店やホテルと同様に自動的に発行されること」にこだわりました。明細書を請求すると「警戒されたり、嫌われたりするのではないか、その後の診察で不利益を被るのでは」と患者を不安にさせてはいけないからです。2002年、大阪大学大学院でソーシャルサービス論のゼミを担当していた頃、講義の題材にと、学生に「医療機関でカルテの写しをもらっていらっしゃい」と宿題を出しました。ところが、ある学生が告白しました。「宿題なので仕方ないのです。別に僕は必要ないのにすみません」と窓口で謝って受け取ってきたというのです。この話を聞いた時、明細書やカルテの写しを弱い立場の患者が請求するときの心の負担がどんなに大きいかが身にしみました。医師ですら、自分が患者の立場になると医療機関の窓口で「明細書がほしい」とか「カルテを見せてほしい」とは言いにくいようで、「自身が経験してやっと患者の気持ちが分かった」という医師もいます。患者から申し出なくても発行することは大前提です。

    患者と医療者が対等に向き合うために

    ——患者にとって納得の医療とは?

     インフォームド・コンセントとは、「十分な情報を知らされた患者が治療法や検査を、選んだり、拒否したり、同意したりするプロセス」のことです。でも、私が朝日新聞でシンポジウムをした1990年の頃は「インフォームド・コンセント」という言葉がほとんど知られていませんでした。そこで、「病気を知って病気とつきあう」というタイトルにしました。
     11年前、私自身がそのインフォームド・コンセントを経験することになりました。会議中、私の携帯に80歳の母から「私、がんだったの」と連絡が入りました。母の主治医に伺ったところ、この科では、まずご本人に知らせ、その了承が得られれば、家族にも知らせるのだそうです。「80歳の人にがんと告げたりしてかわいそうに」という反応を示した人が専門家にも素人にも少なくありませんでした。でも、わが家の場合、それは素晴らしい結果をもたらしました。「入院してチューブにつながれるくらいなら、死んだ方がマシ」というのが口癖だった母が、意外なほどすんなりと手術を承諾しました。息子、娘、孫が照れずに「急性親孝行症」、「突発性祖母思い」になることができ、それが母を喜ばせ、元気づけることになりました。がんを隠すためにエネルギーを使う必要がなくなり、家族や看護師さんの足が遠のくこともなかった。この良さは「治らないがん」についても当てはまります。人生の最期を充実させるためにこそのインフォームド・コンセントです。
     患者と医療者が対等な立場で向き合うことは、治療効果を上げる上でも大事です。母は90歳で、こんどは悪性リンパ腫になったのですが、今回も本人が病気を知った上で抗ガン剤の通院治療を受けることを決め、病院から自宅に戻るとメキメキ元気になり、孫が訪ねてくるのを楽しみに自宅で暮らしています。

    ——連合の取り組みへの期待は?

     一部の医療機関から「明細書の記載内容を患者が理解するのは難しい」、「紙の無駄」という意見があるとのことですが、カルテや明細書の見方など、子どもの頃から学ぶ「医療教育」があってもいいと思います。
     「紙の無駄」と思わせてしまうかどうかは、連合や健保連、協会けんぽなどの今後の努力にかかっているのではないでしょうか? 「明細書を受け取って良かった」「昔は明細書がなかったためにこんな酷い目にあってしまった」という実話があれば、説得力があります。患者も家族も明細書が必要だと思うはず。明細書発行の意義は、自分の医療を「知る」こと、医療の仕組みに関心をもつことにあります。広める運動を続けていただきたいと思っています。

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